第10回日本整形外科超音波研究会インターネット討論 演題1

超音波検査が有用であった陳旧性長母指屈筋腱断裂の1例

聖マリアンナ医科大学整形外科

今村恵一郎、別府諸兄、中島浩志、木村 元、小泉孝夫、山崎誠、青木治人 


[目的]

 今回われわれは、幼少児期に受傷し放置されていた長母指屈筋腱(以下FPL)断裂の診断に際し、超音波検査が有用であった症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。

[症例]

 23歳、女性、美容師。主訴は左母指の屈曲障害。8歳の頃、果物ナイフで受傷し、近医で創の縫合のみを受けたが、左母指IP関節の自動屈曲は不能であった。利き手と逆のためさほど不自由なく生活していたが、美容師の仕事の際に母指IP関節の屈曲ができず、母指伸展の際に母指のIP関節が過伸展位となり不自由なため来院した。

[結果]

 超音波検査で、FPLを母指球に認めた(図1)。母指IPの屈曲を意図させるとFPLの滑動を観察できた。 

図1(拡大図があります)

 FPLの中枢片の末梢端は、母指MP関節より遠位のやや橈側で基節骨に癒着していた(図2)。

図2(拡大図があります)

 IP関節の中枢約1.1cmの部分にFPL末梢片の中枢端を認めた。癒着はしていなかった(図3)。

図3(拡大図があります)

 断端は筆尖状に先細りしていた。断端間の距離は1.2cmであった(図4)。

図4(拡大図があります)

 手術は、FPLの端々縫合が困難であったため、環指のFDSを用いて腱移行術を行った。FPLの中枢片は、bowstringingの予防のためにpulleyの作製に使用した。術中所見は、超音波検査所見と一致していた。

図5(拡大図があります)

[考察]

 FPLは、母指球筋の間を通過しており、手指の腱の中でも超音波検査によって容易に描出可能である。本症例では、病歴からFPL中枢片が中枢に引き込まれていると思われたが、超音波検査によって断裂部の腱の状態を確認できた。したがって、腱断裂の症例では、術前の超音波検査は有用な方法と考えられる。

[文献]

1)Nakajima H,Imamura K et al:Ultrasonographic diagnosis of tendon disorders. J.JaSOU 6:192-195,1994.

2)中島浩志:手の外科領域における超音波診断.MB Orthop. 11:55-62,1998.

3)飯田博幸:腱損傷に対する超音波診断の有用性と限界.MB Orthop. 11:71-79,1998.

4)中島浩志,今村恵一郎ほか:手の外科領域における超音波診断の有用性と限界.日整超研会誌 5:82-85, 1993.


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