第10回日本整形外科超音波研究会インターネット討論 演題3

術中パワードプラ法を用いた屈曲性脊髄症(Flexion Myelopathy)の病態検討

名古屋大学整形外科

佐藤公治、松山幸弘、金村徳相、住田憲治、神谷光広、岩田 久


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【目的】

 屈曲性脊髄症(Flexion Myelopathy)の病態について多くの報告があるが、いまだ不明な点も多い。平山の若年性一側性筋萎縮症の報告以来、屈曲性脊髄症にはさまざまな病態が含まれているが、Breig、Reid、Pennigらの頚椎屈曲位でのcontact pressureおよびaxial tensionによるmyelopathyであるという知見が基本となっている。屈曲性脊髄症は、現在までのところ頚椎屈曲により頚髄前角細胞障害を主体とする頚髄症が起こる疾患群の総称といえる。最近の知見では、MRIにて拡大した硬膜外静脈叢の報告や、さらに頚椎硬膜管周囲の血流動体についてMR-angioやPC法による研究が行なわれている。またその病理所見では脊髄前角の虚血性壊死を示しており、脊髄の血流障害との関与も示唆されている。我々は屈曲性脊髄症の2例に対し、術中に頚部を屈曲進展し、パワードプラ(Power Doppler)検査にて脊髄の血流状態を観察した。

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【方法】

 Power Doppler検査には、GE横河メディカルシステム社製LOGIQ 500MDを使用した。従来の白黒Bモード断層法に加えてPower Doppler表示が可能である。血流速度の二次元分布をカラーでBモード断層画像に重ねて表示してあり、脊髄の前方にあるオレンジ色の像が前脊髄動脈である。さらにPower Dopplerではある検査点の血流信号を、高速フーリエ変換(FFT)し流速波形を表示できる。理論的には、血管の断面積に平均血流速度を乗ずれば、血流の算出は可能であるが、前脊髄動脈や脊髄髄内の血管は細く走行も複雑で、かつドプラビームと血管のなす角度が不正確なため、現在のところ血流速度はその指標とならず、血管抵抗を示すRI、PIを指標として評価を行っている。

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【代表症例】

 症例1は49歳男性、15,6歳ごろより両手の筋萎縮があり、2年前より右上肢の脱力感、歩行障害が出現。明らかな知覚異常はなく、両上肢の筋力低下、下肢腱反射の亢進を認めた。Myelographyでは頚髄の萎縮を認め、屈曲にて脊髄が前方に移動し、椎体後方に押し付けられていた。CTMでは左側優位の頚髄の萎縮を認め、屈曲での頚髄の前方への移動を認めた。MRIにても同様に、屈曲で脊髄が前方移動し、頚髄が椎体後で圧迫されている所見を認めた。以上よりFlexion Myelopathyと診断し、後方より硬膜管形成術とC4からC6までの頚椎固定術を行った。術中のPower Dopplerである。屈曲により頚髄が前方に移動し、椎体後縁に押し付けられていた。また伸展では前脊髄動脈の描出が良好であったのに対し、屈曲位では描出困難となった。PI、RIとも屈曲により増大した。

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 症例2は36歳の女性で、33歳ごろより右手の脱力感と筋萎縮に気付いた。右手尺側の筋萎縮と軽度の筋力、知覚の低下を認めた。MRIでは明らかな頚髄の圧迫はないものの、萎縮、扁平化していた。屈曲では頚髄が前方に移動し、後方のくも膜下腔の拡大を認めた。Flexion Myelopathyと診断し、後方より硬膜管形成術とC4からC6までの頚椎固定術を行った。術中のPower Dopplerでは屈曲により軽度頚髄が前方に移動していた。また伸展では前脊髄動脈の描出が良好であったのに対し、屈曲では描出困難となり、PI、RIとも屈曲により増大した。

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【考察】

 Flexion Myelopathy の脊髄病理所見ではC5からTh1、特にC7およびC8レベル脊髄両側の前角が壊死に陥る。しかしその周囲の白質がよく保たれているがその特徴といえる。脊髄は虚血性機序に対して、灰白質、特に前角が最も脆弱であることと合わせても、その病態に前脊髄動脈での虚血性機序が大いに関与していことが疑われる。今回のFlexion Myelopathyに対するPower Doppler検査では、術中頚部を屈曲すると前脊髄動脈の血流速度は減少した。また屈曲により前脊髄動脈の血管抵抗は増加し、前脊髄動脈の狭窄の存在を示唆した。しかし現在までのところ前脊髄動脈のPower Doppler検査による評価法は確立されておらず、血流の直接的な判断は困難で、今後症例を増やし検討していく必要がある。

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【まとめ】

 Flexion Myelopathy の2例について、術中頚部を屈曲進展しPower Doppler 検査を行った。前脊髄動脈は、術中屈曲にて血流が減少し、その血管抵抗の増大を認め、その病態に前脊髄動脈での虚血性機序が関与していることが疑われた。

【文献】

1.佐藤公治他, 脊髄手術におけるパワードプラ法の有用性, J Med Ultrasonics 24(7), 973-979, 1997

2.佐藤公治他, 脊髄腫瘍におけるパワードプラエコーの有用性, 骨・関節・靱帯11(5), 487-492, 1998

3. Shinomiya K. Dawson J. Spengler DM. Konrad P. Blumenkopf B. An analysis of the posterior epidural ligament role on the cervical,spinal cord. [Journal Article] Spine. 21(18):2081-8, 1996.
4. Robberecht W. Aguirre T. Van den Bosch L. Theys P. Nees H. Cassiman JJ. Matthijs G. Familial juvenile focal amyotrophy of the upper extremity (Hirayama disease). Superoxide dismutase 1 genotype and activity. Archives of Neurology. 54(1):46-50,1997


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