手の外科領域における骨折の診断及び治療への超音波の利用とその可能性について

社会保険田川病院 整形外科/西岡英次,山田徹,伊藤伸一
聖マリア病院整形外科/吉田健治
久留米大学医療センター/山中健輔
久留米大学整形外科/井上明生


【はじめに】手の外科領域の骨折時の診断はレントゲンが一般的です.また骨折の整復や手術の際にはイメージを使用することが多く、術者・患者ともに被爆は避けられないものと思われてきました。今回、私達は超音波が骨折の診断に有効であるかどうか、また骨折の整復や手術の際に被爆を最小限にできないかどうかについて検討しました.

【方法】超音波装置はアロカ社製 SSD-1000(Fig.1)で,7.5MHzのカプラ付きのプローブ(Fig.2)を使用しました。
Fig.1(以下、インライン画像をクリックすると拡大図を見れます)Fig.2

 

【対象】は橈尺骨遠位部コレス骨折5例,橈尺骨遠位部粉砕骨折1例,母指中手骨基部骨折1例,小指中手骨骨折1例,小指基節骨骨折2例,小指関節内骨折1例,槌指2例です。

【症例】

  1. 右橈尺骨遠位部のコレス骨折の患者さんですが、整復の際に超音波を使用しました。整復前と整復後で背側よりの確認が可能です。整復前の正面のX-P(Fig.3),側面のX-P(Fig.4)を示します。
    Fig.3 Fig.4

    整復前に背側より第2中手骨の延長上(Fig.5),第3中手骨の延長上(Fig.6),尺骨茎状突起上(Fig7)で長軸走査を行いました。
    Fig.5 Fig.6 Fig.7

    整復後も同じように背側より長軸走査を行いました(Fig.8-10)。骨折部が整復されているのが確認できます。ただ整復の掌側よりの確認は,シーネを当てた場合困難です。
    Fig.8 Fig.9 Fig.10

    整復後の正面のX-P(Fig.11),側面のX-P(Fig.12)を示します。
    Fig.11 Fig.12

    この症例の2ヶ月後の正面のX-P(Fig.13),側面のX-P(Fig.14)です。若干の転位がありますが、掌側よりの長軸走査(Fig.15)で仮骨を確認できます。
    Fig13 Fig.14 Fig.15


  2. 左橈尺骨遠位部の粉砕骨折の患者さんです。創外固定を使用して手術を行ったのですが、橈骨は2カ所で骨折していました。手術前の正面のX-P(Fig.16),側面のX-P(Fig.17)を示します。
    Fig.16 Fig.17

    長軸走査で関節部(Fig.18),遠位の骨折部(Fig.19),近位の骨折部(Fig.20)でK-wireを上に置いて確認し、スクリューの刺入部の決定に利用しました。
    Fig.18    Fig.19    Fig.20

    尺骨上にも長軸走査を行いました(Fig.21)。
    Fig.21

    創外固定を装着後橈骨の遠位部の整復状態(Fig.22),近位部の整復状態(Fig.23)を確認し、固定しました。
    Fig.22 Fig.23

    術後の正面のX-P(Fig.24),側面のX-P(Fig.25)を示します。
    Fig.24 Fig.25

    また、第2中手骨へのスクリュ-の刺入の際にも超音波を使用しました(Fig.26)。尺骨部へのK-wireの際、長軸(Fig.27),短軸(Fig.28)で確認したのですが、
    Fig.26 Fig.27 Fig.28

    イメージでK-wireが橈側へ抜けており(Fig.29)、再固定を行いました。
    Fig.29


  3. 槌指の患者さんですが、石黒法にて手術を行いました。手術の際、まずDIP部を屈曲し、骨片の中枢部を確認し、K-wireの刺入部を決定します(Fig.30)。その部よりK-wireを近位へ刺入しイメージで確認しました(Fig.31)。
    Fig.30Fig.31

    次にDIP部を伸展し、骨片が骨折部に合うことを超音波で確認し(Fig.32)、イメージでも念のため確認しました(Fig.33)。
    Fig.32 Fig.33

    最後に末節骨遠位よりK-wireを刺入しました(Fig.34)。ただ骨の中をK-wireが貫通する様子は確認できませんでした(Fig.35)。
    Fig.34Fig.35

    この手術の際イメージを確認のためだけに使用し,被爆を大幅に避けることができました。ただK-wire で固定する場合、プローブをやや横からあてなければならず,滑りやすい欠点があると思われます。


  4. 左小指基節骨骨折の患者さんです。来院時の正面のX-P(Fig.36),側面のX-P(Fig.37)を示します。
    Fig.36Fig.37

    長軸の超音波像ですが(Fig.38)、受傷後2週で他医よりの紹介にて来院のため整復が困難(Fig.39)でした。
    Fig.38Fig.39

    後日骨折部を展開し、K-wire にて固定を行いました。術後の正面のX-P(Fig.40),側面のX-P(Fig.41)を示します。
    Fig.40Fig.41

    上方よりの長軸の超音波像(Fig.42),側方よりの像(Fig.43)を示します。
    Fig.42Fig.43

【まとめ】

  1. 手の外科領域の骨折の診断や治療の際に超音波は有効で、被爆を減らすことができると思われます。
  2. 骨折の整復の際、シーネを当てた側からの走査は困難と思われます。
  3. 骨を貫通するK-wireやスクリューの確認は困難と思われます。