先天性股関節脱臼における超音波矢状面断層像の検討

Examination of congenital dislocation of the hip by ultrasonic sagittal tomography

 

東京医科大学 整形外科               上野剛史 今給黎篤弘

信濃医療福祉センター                 朝貝芳美 渡邉泰央 山藤崇

東京医科大学八王子医療センター        伊藤康二

 

 

(目的)本研究の目的は、先天性股関節脱臼(以下、先天股脱)の超音波矢状面断層像による前方偏位を経時的に観察し、正常例との比較を行い、股関節の発育に及ぼす影響について検討することである。

(対象および方法) 正常群は、乳児股関節検診または下肢痛等にて当センターを受診し、超音波およびX線にて股関節に異常を認めなかった1837 関節(0ヶ月~9歳)である。異常群は、生後3~4ヶ月に先天股脱と診断された118関節(臼蓋形成不全36関節、亜脱臼45関節、脱臼37関節)を対象とした。これらの症例に対し、超音波矢状面断層像より前方偏位角(ASA)を設定、計測し、経時的に観察を行い、X線臼蓋角との関連等について調査した。

(結果) ASAは、両群ともに月齢が進むにつれ減少する傾向にあった。各月齢における比較においては、3~4ヶ月では、両群間に有意差は認められないものの、6ヶ月以降では、異常群が有意に増大していた。また、異常群の経時的観察において、X線臼蓋角が30度未満に改善しなかった例を不良例とすると、ASAが11度以上であったものが、1歳時45例中38例(84.4%)、2歳時28例中20例(71.4%)、3歳時8例中5例(62.5%)であり、ASAと臼蓋形成との関連が示唆された。

(結語) 先天股脱では、正常例に比し前方偏位が遷延する傾向にあり、超音波矢状面断層像による経時的観察は、股関節発育に対する補助的診断として有用と考えられた。