超音波で診た成人股関節痛
Adult hip joint pain observed with U.S
協和病院 整形外科 建川文雄
日常診療に股関節の痛を訴え来院する患者は決して少なくない。過去８年間この訴えのある患者１４６人に対し超音波検査を中心に診察を行った。中変形性関節症、２０才以下の子供とカルテ記載が不十分、臨床及びX―線上異常を認めない症例は除外し、残りは５４人の男性２１人、女性３３人であった。
平均年令６０.９才で男性６１.６、女性は６０.１才。理学的検査、X―線撮影を行った後、７.５または５.０のリニアプローブを用いてDorn-Wingstrand法により両股関節を走査し、関節包の幅（Joint capsular space-服部）を計測比較した。その差が４.０mm.以上であれば関節包膨隆があるとして、患者に積極的関節穿刺を勧め浸出液の獲得を試み、起炎菌、結晶等の有無を調べてみた。
５４人の中関節包幅の左右差が４m.m.以上あったのは１６人で、関節穿刺に応じた患者は計１３人、中８関節から穿刺液が得られたが、残りの５関節はdry tapping であった。全ての穿刺液に起炎菌、結晶等の存在は証明されなかったが、 穿刺液が８C.C.以上の３関節に経過を追って診ると、２例は数カ月後に大腿骨頭壊死と判明、他の一例は関節液貯留を繰り返し数年後にX―線上変形性関節症の所見を呈した。穿刺液８C.C.以下の５関節、dry taping の５関節と穿刺を拒んだ３関節は数週以内に症状が軽快した。関節幅の左右差４m.m.以下の３８人にもその後も特に問題はなかった。
まとめ：６０才以上で股関節痛を訴え来院する患者は決して少なくない。臨床症状が乏しく、X―線に異常所見がなく、エコー検査で両関節幅の差が４m.m.以内でれば特に問題にならない。しかし、X―線上所見がなくても健側との関節包幅の差が４m.m.以上の関節は注意を要す。中には骨頭壊死、または変形性関節症の初期であるかも知れないので更に精査が必要である。エコー検査は簡便でこれら疾患の早期発見のスクリニングに有用と思われる。