肩甲上神経麻痺をともなう肩甲棘基部のガングリオンに対する
超音波ガイド下穿刺の試み
Puncture of the ganglion on the base of scapular spine with
suprascapular nerve palsy
京都府立医科大学大学院医学研究科 運動器機能再生外科学
堀井基行、久保俊一
済生会吹田病院 整形外科 黒川正夫
肩甲棘基部のガングリオンによる肩甲上神経麻痺は比較的まれとされてきた。しかし、MRIや超音波検査などの検査法の普及に伴い、最近では報告が増えている。神経への圧迫を取り除くにはガングリオンの手術的な切除が一般的であるが、これは通常全身麻酔を要し、三角筋や棘下筋の部分切離を伴うため術後に比較的長期に日常生活が制限される。われわれは超音波によるガイド下のガングリオン穿刺を4症例に対し試みた。全例男性、年齢は19歳から36歳（平均28歳）で、右が3例であった。穿刺後の経過観察期間は8ヵ月から4年4ヵ月（平均1年10ヵ月）であった。4症例ともに肩周囲の疼痛と外旋筋力の低下がみられ、MRIおよび超音波検査にて肩甲棘基部のガングリオンによる肩甲上神経麻痺と診断した。超音波ガイド下にガングリオンの穿刺を行い、ゼリー状で透明な内容物を吸引したあと、ステロイド剤の注入を行った。超音波装置にはアロカ製SSD-650CLを用い、プローベとして3例にはリニア型（7.5MHz）を、1例では術中用コンベックス型（7.5MHz）に専用の穿刺アダプターを取り付けて使用した。穿刺針は18ゲージのPTC針を用いた。うち1例では症状が持続するため約2ヵ月後に再穿刺を行った。再穿刺例を含め、穿刺にて画像上ガングリオンは縮小したが、2例では最終経過観察時（8ヵ月、52ヵ月）にほぼ元の大きさに増大した。しかし、疼痛は穿刺直後から消失し、外旋筋力も約1カ月で回復し、その後も症状は再発していない。超音波ガイド下の穿刺は、肩甲骨基部のガングリオンによる肩甲上神経麻痺のうち比較的症状の軽い症例に対して侵襲が少なくかつ有効な治療法と考える。