10.乳児股関節における通常断層像とTissue Harmonic Imaging像の比較

大阪医科大学 整形外科
瀬本喜啓 藤原憲太 阿部宗昭

【目的】Tissue Harmonic Imaging(以下THI)は、超音波が生体組織中を伝わっていくに従い、最初に送信した音の整数倍の周波数を信号処理することによってアーチファクトを低減させる技術である。今回、乳児股関節において、通常断層像とTHIを比較したので報告する。
【症例】症例は、開排制限を主訴に来院した3か月から6か月(平均4.4か月)の女児8例16関節である。Graf法により通常断層像とTHI像を撮像し、腸骨外壁、labrum、腸骨下端の描出の程度を比較した。使用した機種は東芝社製Aplioで使用周波数は基本波8Mhzである。
【結果】軟骨膜と腸骨外壁は、THI像ではが全例明確に区別できたが、通常断層像では8関節しか区別できなかった。Labrumはどちらの方法でも全例判別が可能であったが、THI像では、labrumと関節包との境界がより鮮明であった。通常断層像では腸骨下端が全例で明確に描出されたが、THI像では5関節しか腸骨下端が描出できなかった。
【考察】THIの長所は、組織間の境界が明確に描出され、ノイズが少ないことである。その反面、通常画像より減衰が強く、深部の描出能に劣る。今回の検討では、THIは深部2cmまでの腸骨外壁とlabrumの描出能は通常画像より優れていたが、深部3〜4cmの腸骨下端の描出ができなかった関節が5関節あった。Graf法では腸骨下端の描出が不可欠であるので、腸骨下端の描出能に劣るTHI像より通常画像のほうが優れているという結果が出た。しかし、THIでは関節包とlabrumの区別が明確で、軟骨性臼蓋や骨頭などの軟骨成分にはノイズの発生が極めて少ないなど優れた特徴があり、今後低い周波数の基本波を用いるなどの改良を加えることにより、さらに鮮明な画像が得られるのではないかと考えている。
【まとめ】乳児股関節の超音波検査には、通常断層像のほうが、現時点THI像より優れていた。