5.先天性股関節脱臼例における超音波前方偏位角と臼蓋形成の経年的推移
Long term follow up of ultrasonic anterior shift angle and acetabular angle in congenital dislocation of the hip

信濃医療福祉センター 整形外科(Department Orthopaedic Surgery, Shinano Handicapped Children’s Hospital)
東京医科大学 整形外科(Department Orthopaedic Surgery, Tokyo Medical University)
朝貝芳美(Asagai Yoshimi) 上野剛(Ueno Tsuyoshi)

我々は先天性股関節脱臼に対して超音波矢状面断層像による前方偏位角(前方骨性臼蓋嘴を通る水平線と前方臼蓋嘴から関節包最前縁内側を通る線とのなす角)について検討し、臼蓋前方被覆の指標として有用なことを報告してきた。今回は超音波前方偏位角とX線臼蓋形成の経年的推移を検討した。
対象及び方法:対象は1歳以上まで経過観察可能であった脱臼37関節、亜脱臼45関節、臼蓋形成不全36関節である。超音波矢状面断層像から前方偏位角を計測し、X線像臼蓋形成の推移との関連を検討した。
結果:脱臼37関節のうち3歳時臼蓋角31度以上は3関節、前方偏位角20度以上は6関節みられたが、5歳時に前方偏位角20度以上は2関節となり、この2関節は以後臼蓋形成が残存した。亜脱臼例45関節のうち3歳時臼蓋角31度以上の例はなく、前方偏位角20度以上は2関節みられたが、2関節とも5歳時には前方偏位角は0度となり臼蓋形成も良好となった。初診時脱臼、亜脱臼例であっても5歳時に前方偏位角が20度未満の例では臼蓋形成不全を残存した例はなかった。初診時35度以上の臼蓋形成不全36関節では3歳時臼蓋角31度以上、前方偏位角16度以上の例はなかった。考察及びまとめ:臼蓋形成の経過は単純X線のみでは予想しにくい場合がある。超音波矢状面断層像による前方偏位角の推移は臼蓋前方被覆の状態を簡単に繰り返し検査可能であり、先天性股関節脱臼後の臼蓋形成の経過観察における補助的検査として有用である。